私は誰が何と言おうと、どんな理由があろうと、戦争には絶対反対です。
以下の記事はニュースステーションのメールマガジン「ブーメラン」に掲載したものです。
【2003年3月18日掲載】
3月8日土曜日の夕方、私は新橋駅の前で外堀通りから電通通りへと行進する反戦デモの長い列をずっとみていた。
お年よりも、制服の女子高生も、小さな子供を抱えた母親も行進に加わっていた。
世代や所属団体を超えて、一人一人が自分自身の声で、アメリカによる戦争反対を叫んでいた。
理不尽なリストラに遭っても、賃下げをされても、増税をされても、一切行動に出なかった日本国民に、反戦の声が広がってきている事を 肌身で感じて、私は涙がこみ上げてくるのを抑えられなかった。
私は軍事や外交の専門家ではないが、いま多くの評論家や財界人あるいは政治家が、国連決議なしにアメリカが攻撃に踏み切った場合でも、日本政府はすぐにアメリカ支持を打ち出すべきだと言っている現状は我慢がならない。
彼らがアメリカ支持を主張する理由は、簡単に言うと、「ここで恩を売っておけば、北朝鮮のときに助けてくれる」ということらしい。
しかし、イラクの次は、本当に北朝鮮を攻撃しなければならないのだろうか。
確かにサダム・フセインや金正日が、これまで独裁者として人権抑圧を繰り返したり、大量破壊兵器を開発してきたことは間違いないだろう。
ただ、だからと言って力でねじ伏せることが正しいと言えるのだろうか。
例えば、中国にしても、ベトナムにしても、しばらく前まではとても民主的な国家とは言えなかった。
それが大きく変わったのは、経済的に豊かになったからである。
力でねじ伏せるのではなく、経済的な豊かさを実現することが、独裁を終わらせる最良の方法なのではないか。
そんなことをしたら時間がかかってしまうという反論もあるかもしれない。
だが、アフガニスタンをみても、アメリカは戦後にろくな復興支援をしていない。
戦争の方が、長く人々の生活を苦しめることは明らかなのではないだろうか。
イラクは国民に対して化学兵器を使用したから危険だという主張もあるが、湾岸戦争でアメリカ軍は100万発もの劣化ウラン弾を使用している。放射能の影響は、いまでも、そして今後もイラク国民を苦しめる。
そして、世界で唯一核兵器を使用したことがあるのはアメリカなのだ。
イラクを危険というなら、一番危険なのはアメリカなのではないだろうか。
もちろん、イラクはともかく、わが国が北朝鮮から軍事的脅威を受けていることは確かだろう。
しかし、北朝鮮を刺激して危険な行動に走らせているのは、他ならないアメリカなのだ。
余計な圧力をかけなければ、日本が危険にさらされる確率は随分減るだろうし、万が一日本攻撃時にアメリカに守ってもらえなくても、私は大量殺人に加担するくらいだったら、死んでしまった方がましだと思う。
アメリカを支持しないことの本当のコストは、アメリカを支持しないとアメリカから経済取引の面で様々な嫌がらせを受けることだけだろう。
日本はそのために一層の不況になるかもしれない。
しかし、戦争による不況よりも、戦争を避けるための不況の方が、我慢のしがいがあると、私は思う。
【2003年5月14日掲載】
この国は全てアメリカになってしまうのだろうか。
バグダッド陥落から1ヶ月が過ぎました。
イラク戦争のことを書く機会は、おそらくもうないと思いますので、最後にまとめを書かせてください。
5月9日の朝日新聞夕刊は、米国が国連に提示する対イラク制裁解除決議案で、イラクの石油売却代金は米英の指導下に管理されることになったことを伝えました。
このニュースをみて、私の頭に真っ先に浮かんだのは、映画評論家の三留まゆみさんから頂いた2月のベルリン映画祭で掲出された巨大ポスターの写真でした。
高さ7~8メートルはあろうかというこのポスターは、新作の戦争映画のポスターを模しています。
登場人物は、センターにブッシュ大統領、左にブレア首相、そして右にはチェイニー副大統領が、いずれも軍装で写っています。ブッシュは正装、ブレアとチェイニーはマシンガンを抱えて迷彩服です。
映画のタイトルは、”PEACE KILLER”、そして副題は”THE WAY TO FIND BIN LADEN” です。
しかもご丁寧に、ポスターのトップには、次のように書かれています。
“ENRON,HULLIBURTON AND REAL TIME FILMS PRESENTS”
ブッシュとブレアに加えて、チェイニーを登場させたこと、ハリバートン社(就任直前までチェイニーがCEOをしていたエネルギー会社)の提供としたことは、2月の時点ですでにこのポスターがイラク戦争の本質を見抜いていたような気がします。
映画と言えば、アカデミー賞の授賞式の壇上で「ブッシュ大統領よ恥を知れ」と戦争反対を唱えたマイケル・ムーア監督ですが、会場は、監督の反戦スピーチの直後、喝采する人々の声が上がり、続けてそれに反対する観客からブーイングの声があがったそうです。
その後、アメリカのメディアでは、戦争に反対するアーティストは仕事がなくなるという論評が相次いだそうですが、実際には映画を上映する場所は増え、次回の監督作品の資金提供者が翌日現れ、そして観客数もうなぎのぼりになったとのことです。
アメリカ人のすべてが悪いのではなく、一部の戦争マニアとそれを支えるメディアが、大義のない戦争を作ったのではないでしょうか。
今回のイラク戦争で、CNNやFOXの報道は、まるで大本営発表そのものでした。
空爆で人が死ぬというのに、まるで大型娯楽劇をみせているような報道の仕方は、みていて心が押しつぶされそうでした。
バグダッド陥落前日の4月8日、世界のメディアが活動拠点としていたパレスチナホテルを侵攻してきた米軍戦車が砲撃し、ロイター通信の1人が死亡、3人が負傷したほか、スペインの民放テレビの1人も死亡しました。
4月25日、バグダッドから命がけで真の戦争の姿を報道し続けたアジアプレスの綿井健陽さんが、番組に出演してくださいました。
本番前に、私は前から疑問に思っていたことを彼に質問しました。
「砲撃の日、パレスチナホテルにCNNやFOXの記者やカメラマンはいたのか」ということです。
綿井さんの答えは「イラク政府に追放されて、とっくにいなかった」ということでした。
つまり、砲撃の日には、客観報道をするメディアしか、パレスチナホテルにはいなかったことになります。
しかも、綿井さんの次の言葉にはもっと驚きました。
「砲撃の翌日、米軍の戦車部隊は、パレスチナホテルに宿泊した」のだそうです。
厚顔無恥という言葉は、このことのためにあるような気さえします。
翻って、わが国の国会では、個人情報保護法案が国会を通過しようとしています。
この法律によって、政治スキャンダルを追及してきた雑誌の活動は、大きく制約されることになるでしょう。
外交、政治、経済から報道のあり方まで、わが国はアメリカに追随しようとしているのではないでしょうか。
イラストライター 三留まゆみ氏 提供