経済社会学b 第4回 小泉構造改革と金融資本主義

 

いじめられた子供は、将来いじめっ子になる

 

. バブル崩壊後の最安値

 2003.4.28. 7607

2001年度の資産構成比(%)

 

.自民党総裁選の争点

2003.2.20.経済財政諮問会議「中期経済財政展望の改定」デフレ脱却期限を2005年度へと2年間先送り

竹森俊平『経済論戦は甦る』(東洋経済新報社)世界恐慌期に、デフレ脱却の方法を巡って重要な論戦が行なわれた

@ヨゼフ・シュンペーター(1883年〜1950年)の清算主義、あるいは創造的破壊の理論。生産性の低い衰退企業を市場から退出させれば、解放された資源が成長分野に振り向けられ、新しい付加価値が創造される。

Aアービング・フィッシャー(1867年〜1947年)の「リフレ政策」だ。デフレ期には債務負担が必要以上に重くなり、本来生き残っていける企業までも破綻させてしまうデット・デフレーションが発生するので、財政・金融を拡張して物価を上げるリフレ政策が必要だとした。

 小泉首相のデフレ対策:歳出、税制、金融、規制の4つの改革

 

. 突然あらわれた株高

 5月17日 銀行への公的資金注入は、株式市場は全面安

5月22日 年初来高値を更新。政府関係者の「株主責任は問わない」発言によって。

 日銀 マネタリーベースの大幅拡大(4月11.5%→620.3%)

5月と6月にかけて政府は4兆5千億円の円売り、ドル買い介入

 →株価の急上昇 4/287/9 日経平均31.3%、不動産42.9%、メガバンク88.1

5大銀行の時価総額は6兆円。2001年度の都市銀行の本来利益4兆円。融資の焦げ付きや保有株の損失で7兆6千億の赤字。経常利益はマイナス3兆6千億。

 2003.3. 日銀総裁が速水優氏から福井俊彦氏へ交代

         金融緩和後のUFJ、みずほの株価

.小泉首相包囲網の崩壊

2003.7.の講演、堀内光雄政調会長「まさに竹中さんは貧乏神だ。今や日本経済は、破局に向かって進んでいる。このままでは日本はメルトダウンしてしまう」。時価会計の批判

2003.8.堀内氏は古賀誠氏らからの総裁選出馬打診に対して不出馬を表明した。「私と小泉純一郎首相の相違点は経済問題だが、基本的に違うのではない」

2003.8.6.河野洋平氏、毎日新聞「マクロ経済政策は間違っている。もっと早く果断な景気対策をやっていれば、こんなに不況は長引かなかっただろう。気になるのは弱肉強食≠認め、それでいいじゃないかというムードが強くなっていることだ。頭のいい若者がコンピューターを駆使して金融取引をして、あっという間に巨万の富を得る。それが称賛される。その一方で、先祖代々手作業で家具やカバンを作り続けてきた人たちが税金も払えず、店をたたむ状況に追い込まれている。そんな社会をよいとは、僕は思わない」

 2003.8.講演「小泉純一郎首相の構造改革の方向は、日本が国際競争力を強くしなければならないという面で正しい」。2003.9.「ベターな候補として小泉首相を支持する」

 

5.2004年UFJ銀行に何が起きたのか

1月末 金融庁3期連続の特別検査着手 検査忌避問題の本格調査

4/28 3月期決算見込みを3割下方修正 黒字は維持

5/21 住友信託へのUFJ信託を3000億円での売却を発表。

5/24 4028億円の最終赤字を発表、3首脳が引責辞任

・5月下旬 沖原新頭取が三菱東京の三木社長へ統合打診

6/18 金融庁 検査忌避、収益未達成、収益計画変更、中小企業貸出4件の業務改善命令

7/14 三菱東京へ正式統合申し入れ、信託売却を白紙撤回

7/16 統合合意。3000億円資本増強。住友信託が東京地裁に交渉差止め仮処分申請

7/27 東京地裁が交渉差止め仮処分

7/28 UFJが異議申し立て

7/28 UFJ組織的検査忌避を認める

7/30 三井住友が統合申し入れの方針発表

8/4 東京地裁、UFJの異議却下、東京高裁に抗告

8/11 東京高裁仮処分取り消し、三菱東京が資本支援計画発表

8/12 三菱東京UFJ統合基本合意

8/24 三井住友 UFJ株主に統合比率1:1を提案

8/30 最高裁 住友信託の抗告を棄却

9/10 三菱東京7000億円の資本注入発表 

9/28 三井住友 UFJホールディングス株300株を取得。統合提案可能に

10/7 金融庁検査忌避を理由に元役職員を刑事告発

10/8 東京地検がUFJ銀行東京本部を強制捜査

10/28 住友信託 統合差止めを求めて民事訴訟を提訴

12/1 東京地検 元副頭取の岡崎和美容疑者ら3人を逮捕

 

※8月12日、三菱東京フィナンシャルグループとUFJグループが経営統合の基本合意を締結した。傘下の金融機関を含めると、総資産189兆円、店舗数881、従業員数7万8千人、業務純益1兆7千億円という世界最大の金融機関が誕生することになる。

 当初は、不良債権処理問題で金融庁に追い詰められたUFJを三菱東京が吸収合併するという色あいが濃かったが、三井住友フィナンシャルグループがUFJにラブコールを送ったことから、状況が一変した。

 三井住友は、一貫して「株主の利益」を訴えた。当初3千億円程度と言われた三菱東京の出資額に対抗して、最大7千億円の出資を提示した。人事処遇でも「対等」、「実力本位」を打ち出し、最終的には、合併比率を1対1とする提案にまで踏み込んだ。「三菱東京よりも有利な統合条件を提示しているのだから、これを受けないと株主から訴えられますよ」と、言外に圧力をかけたのだ。

 実質国有化の噂がたつほど経営的に追い詰められたUFJを、なぜ三菱東京と三井住友が高値で奪い合う事態が生じたのか。UFJは意外にも高収益企業だった。例えば、UFJの連結ベースの実質業務純益は、昨年度7946億円だった。UFJは不良債権の処理さえ終われば、突然、超優良企業に変身するのだ。

 

        要管理債権の引当率

貸し倒れ引当金の戻り益(三菱東京UFJ銀行)

 2005年度 5283億円

 2006年度上半期 1595億円

 

UFJの大口融資先7社(セブンシスターズ)

 

アプラス 9/3 新生銀行に1000億円で売却決定

大京 11/26 再生機構が大京グループ向け貸出債権元本総額4843億円のうち871億円の買い取り決定。出資はせず。UFJ銀行ら関係金融機関は、1465億円の債権放棄と300億円の債務の株式化を実施する。その後オリックスが資本支援、2005年4月にはオリックス出身の田代正明氏が社長に就任。

双日ホールディングス 9/29 再建計画決定 自主再建

国際自動車 9/1 UFJ銀やオリックスが出資するシナジー・キャピタルに売却

      赤坂のビルはローンスターに売却

国際興業 11/30 米投資会社のサーベラスが貸出債権約5000億円を半値程度で一括購入

     →サーベラスによる資本注入で再建

ダイエー 10/13 自主再建を断念、12/28 再生機構の支援決定 

2005/03 アドバンテッジパートナーズ、丸紅がスポンサーに

  →2007/03イオンとの提携で合意、イオンの資本参加。丸紅・イオン体制

ミサワホーム 12/28 再生機構の支援決定 → トヨタ自動車、NPF-MG投資事業組合(野村ホールディングス)が資本参加

 

(三井住友フィナンシャルグループ)

04/08 三井住友銀行に金融庁が通常検査に入る。通常11月で終わる検査が翌年4月まで。

05/05/24 三井住友FG決算発表、最終赤字2342億円、与信関係費用1兆1968億円

05/06/29 西川善文 三井住友FG社長兼三井住友銀行頭取 退任

 

 

 

 

正常先

 業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者。

要注意先

(要管理債権)

 金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者。元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者。

 また、要注意先となる債務者については、要管理先である債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい。

破綻懸念先

現状、経営破綻の状況にないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められた債権者。

 具体的には、現状、事業を継続しているが、実質的債務超過の状態に陥っており、状況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、したがって損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営の破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。

実質破綻先

 

法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者。

 具体的には、事業を形式的に継続しているが、財務内容において多額の不良債権を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な貸入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経営情勢の急変により多大な損失を被り。債権の見通しがない状況で、元金又は利息については実質的に長期間延滞している債務者などをいう。

破綻先

法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、たとえば、破産、清算、会社整理、会社更生、和議、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者。

※要管理債権とは要注意先に対する債券のうち3ヶ月以上延滞債権及び貸出条件緩和債権をいう。(13ヶ月以上延滞債権:元金又は利息の支払いが、約定支払日の翌日を決算日として3ヶ月以上延滞している貸出債権(2)貸出条件緩和債権:経済的困難に陥った債務者の債権又は支援を図り、債務者に有利な一定の譲歩を与える約定条件の改訂等を行った貸出債権

 

ハゲタカが本当に日本に必要なのか

政府は、東京に創設する国家戦略特区の事業計画素案を明らかにした。最近、撤退が相次ぐ外資系金融機関を東京に呼び戻すために、外国人向けの医療機関の設置やオフィスの容積率アップなど、様々な対策を施すという。しかし、外資の金融機関、特にハゲタカファンドのようなものが、日本に本当に必要なのだろうか。

 国連人権理事会は、9月26日に、ハゲタカファンドを「経済、社会、文化に悪影響を及ぼす」と非難する決議を賛成多数で採択した。そしてハゲタカファンドが人権に及ぼす影響について実態調査することも決定した。

 興味深いのは、決議案への賛否だ。47の理事国のうち、日本、米国、英国、ドイツ、チェコの5カ国が決議案に反対し、フランスなど9カ国が棄権、中国、ロシアを含む33カ国が賛成した。世界は、圧倒的にハゲタカファンドを「人権を侵害する組織」と判断している。それに抵抗しているのは、日、米、英というハゲタカの巣窟になっている国々だ。

 ハゲタカのビジネスモデルは、表向きは、経営に行き詰まった企業に資金を融通し、経営改革を行って、企業を再生するというものだ。しかし、その実態は、政府と裏で手を握ることを含めて、企業を窮地に追い詰め、経営権を奪い、優良資産を切り売りし、大規模リストラを行って表面的な利益を高め、スカスカになった企業を高値で売り抜けるというのが、基本的なビジネスモデルになっている。

 そうしたハゲタカファンドが、いま実りの秋を迎えている。今回は、ローンスターと並ぶハゲタカ業界の最大手、サーベラスを採り上げようと思う。

 サーベラスは1992年に設立された米国の投資ファンドだ。年金基金や機関投資家、富裕層から資金を集め、高利回りを追求している。ご他聞にもれず、米国政府とも密接な関係を構築し、ブッシュ政権時代の財務長官、ジョン・スノー氏も会長を務めていた。

 そのサーベラスが、今年2月に、国際興業の発行済み株式の55%に相当する保有株を、国際興業の創業者一族が運営する国際興業ホールディングスにすべて売却した。これで国際興業の経営からサーベラスは一切手を引くことになる。しかし、サーベラスの支配下で、国際興業の持っていた優良資産は、ことごとく売り払われ、国際興業に残されたのは本業の資産のみだ。にもかかわらず、売却価格は1400億円という高額だった。また、国際興業ホールディングスが株式を買い戻すため1400億円の資金のほとんどを三井住友銀行が融資した。

 国際興業は田中角栄元首相の盟友と言われた小佐野賢治氏が創業した会社で、本業のバスやタクシーの他に、ホテルやゴルフ場などの観光業を幅広く手がけていた。経営は順調で、帝国ホテルの株式を大量取得して、筆頭株主となり、小佐野賢治氏は念願の帝国ホテル会長の座を手に入れた。

 そんな国際興業の経営に暗雲が漂ったのは、メーンバンクのUFJ銀行が突然、金融庁の執拗な攻撃を受けたことが、きっかけだった。

 小泉政権誕生の1年半後、2002930日の内閣改造で、小泉総理は金融担当大臣の柳澤伯夫氏を罷免し、経済財政政策担当大臣であった竹中平蔵氏に金融担当大臣を兼務させた。竹中大臣は、金融コンサルタントの木村剛氏を招聘して、わずかの期間で不良債権処理のための「金融再生プログラム」を作り上げた。金融再生プログラムの最大の特徴は、市場価格による資産査定を行うDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法の採用だった。そう書くとむずかしく聞こえるかもしれない。それまでの銀行は、融資の引当金(融資がこげついたときのために準備をしておくお金)を過去の同様の企業の平均倒産確率を用いて設定する方法を採っていた。しかしDCF法では、該当企業の将来の資金収支予測を用いて設定する方法に変更した。

 過去の倒産確率というのは客観的な指標であり、誰が資産査定やっても同じ結果になるが、将来の資金収支を用いると、途端に曖昧になる。未来のことなど誰にも分からないからだ。

 実際、UFJ銀行は、経済が好転するケースと暗転するケースの二つのケースを想定していた。当然、暗いケースのほうが、必要となる不良債権処理の額は大きくなる。

 そこに突然金融庁の特別検査が入ることになった。UFJ銀行の幹部は、暗い方のシミュレーションを行った資料を隠すように指示する。ところが、銀行の体制に不満を持つ行員から金融庁に密告電話が入っていた。そして、検査の際に、密告通りの場所から、資料が発見されたのだ。

 その後、金融庁のUFJ銀行イジメは熾烈を極めた。金融庁は、UFJの大口融資先を片端から「不良債権」と認定していったのだ。それがいかに不当なものであったかは、後の決算書で明らかになる。

 2005年3月期決算で、UFJホールディングスは4028億円の大幅な最終赤字に転落した。もちろんその原因は、大口融資先を中心とする債権に大幅な引当金の積み増しを余儀なくされたからだ。その結果、UFJ銀行の要管理債権の引当率は、2004年9月末中間決算の29.1%から2005年3月末には51.3%へと大幅に上昇したのだ。ちなみに他のメガバンクの2004年9月期と2005年3月期の引当率の変化は、東京三菱(30.6%→28.0%)、三井住友(30.5%→39.0%)、みずほ(35.2%→30.5%)だった。他のメガバンクの引当率があまり変わっていないのに、UFJ銀行だけが大きく上昇したのは、明らかに金融庁がUFJの不良債権を「創り出した」証拠だ。

 もう一つ証拠がある。それはUFJ銀行が三菱東京銀行に吸収合併された後、三菱東京UFJ銀行には莫大な貸倒引当金の戻り益が発生する。2005年度は5283億円、2006年度上半期は1595億円だった。他のメガバンクにはほとんど戻り益は発生していないから、金融庁が過大な不良債権認定をしたのを、合併後にきちんと再査定したら、7000億円も不良債権が減ってしまったということだ。金融庁による史上最大の粉飾決算だったと言えるだろう。

 それでは、なぜそんなことをしたのか。当時の小泉内閣は米国から不良債権処理の加速化をしろという強い指令を受けていた。もちろん、アメリカの本当の意図は、日本の資産を二束三文でアメリカに売り渡せということだった。そして金融庁がUFJ銀行を追い詰めた後、UFJのセブンシスターズと呼ばれた大口融資先7社が、不良債権処理されることになったのだ。

 

●アプラス 20049/3 新生銀行に1000億円で売却決定

 

●大京 200411/26 再生機構が大京グループ向け貸出債権元本総額4843億円のうち871億円の買い取り決定。出資はせず。UFJ銀行ら関係金融機関は、1465億円の債権放棄と300億円の債務の株式化を実施する。その後オリックスが資本支援、2005年4月にはオリックス出身の田代正明氏が社長に就任。

 

●双日ホールディングス 20049/29 再建計画決定 自主再建

 

●国際自動車 20049/1 UFJ銀やオリックスが出資するシナジー・キャピタルに売却。赤坂のビルはローンスターに売却

 

●ダイエー 10/13 自主再建を断念、12/28 再生機構の支援決定。 

2005/03 アドバンテッジパートナーズ、丸紅がスポンサーに。

  →2007/03イオンとの提携で合意、イオンの資本参加。丸紅・イオン体制

 

●ミサワホーム 12/28 再生機構の支援決定 → トヨタ自動車、NPF-MG投資事業組合(野村ホールディングス)が資本参加

 

●国際興業 11/30 米投資会社のサーベラスが貸出債権約5000億円を半値で一括購入→サーベラスによる資本注入で再建

 

 土地勘のある方はすぐにお分かりいただけると思うが、ハゲタカがまるで死の商人のような形で仲介し、そして最終的には日本政府と仲の良い大企業に不良債権企業は、売却されていったのだ。

 

 話を国際興業に戻すと、サーベラスはUFJ銀行とりそな銀行から、国際興業への貸し出し債権5000億円を2500億円で購入した。普通であれば、債権を買い取っても経営権を取得することはできないのだが、サーベラスは国際興業に100%減資をさせて他の株主の権利を紙くずにしたうえで、貸出債権の一部を株式化して、国際興業を乗っ取ったのだ。

 サーベラスは、帝国ホテルの持ち株を三井不動産へ、八重洲富士屋ホテルを住友不動産へ売却し、傘下のバス会社も次々に売り払っていった。そして、売るものがほとんどなくなった国際興業を創業家に売り戻したのだ。

 サーベラスは、その後、西武鉄道(西武ホールディングス)の経営再建でも暗躍している。これについては、本メルマガの第3回で書いたが、お読みでない方もいらっしゃると思うので、再掲しておく。

 

 

2013年6月25日、埼玉県所沢市では西武ホールディングスの株主総会が開かれていた。5時間近くにおよぶマラソン総会になったが、長時間化した原因は、米国の投資ファンド、サーベラスが、株式公開買い付けを行い、株主総会で重要事項に対する拒否権を発動できる3分の1超の株式を押さえたうえで、西武ホールディングスに8人の取締役を送り込み、経営を支配しようとしてきたからだ。西武ホールディングス側は、徹底抗戦に出た。1万3000人の全個人株主に対してサーベラスに協力しないよう説得する電話をかけ、西武鉄道の全車両に同様の呼びかけをする中吊り広告を掲出した。

 西武ホールディングス側の主張では、西武ライオンズ球団の売却や一部路線の廃止を求めるサーベラスの経営戦略は、西武の企業価値を毀損するので同意できないというものだった。ライオンズや生活に密着する路線廃止といった提案をしたサーベラスを個人株主が受け入れるはずもなく、株主総会でサーベラスが提出した株主提案はすべて否決された。

 しかし、問題はもっと根深い部分にある。そもそも西武鉄道が経営危機を迎えたきっかけは、政府の金融行政だったのだ。

 0412月に西武鉄道は有価証券報告書の虚偽記載を理由として上場廃止となった。これで西武鉄道の資金調達が困難になり、サーベラスから1000億円の資本を受け入れることにつながった。もちろん虚偽記載をやってはいけないのは当然だが、西武鉄道は浮動株の株数を実際よりも少なく記載していたことが問題にされたのだ。ただ、そのことは、上場廃止に追い込まなければならないほど、深刻な問題ではないだろう。例えば、福島第一原発の事故で、東京電力は事実上の債務超過に追い込まれた。当然、上場廃止にしなければならない事態だが、東電を上場廃止にしようとする動きは一切なかった。

 9年前に「微罪」の西武鉄道を上場廃止に追い込んだのは、竹中平蔵金融担当大臣と五味廣文金融庁長官のコンビだった。今回、サーベラス側が新たな取締役として提案した8人のなかに、その五味廣文氏が含まれていた。社長含みだったと言われる。

 何かきな臭いものを感じないだろうか。上場廃止で創業者の堤家を経営陣から追い出し、それに資金協力した米国ファンドに経営権を売り渡す。国を売るようなことが行われたとみるべきではないだろうか。(引用はここまで。一部修正をした)。

 

 また、サーベラスは、あおぞら銀行への投資でも、わずか1000千億円の投資で、3000億円以上の資金を回収するという荒技を演じている。日本債券信用銀行は、1998年に経営破綻し、2000年にソフトバンクやオリックスなどが出資する企業連合がスポンサーとなって、あおぞら銀行と銀行名を変更し、普通銀行として経営再建を目指した。サーベラスは2003年に、ソフトバンクが持ちきれなくなった保有株を1000億円で取得し、その後あおぞら銀行が再上場すると、数度にわたって売り出し、総額3000億円以上を回収した。

 一見、サーベラスは何も悪いことをしていないように見える。しかし、短期間で資金が3倍以上に化けるというのは明らかに異常だ。

実は、90年代後半の銀行危機のなかで、長期信用銀行3社のなかで一番経営が痛んでいたのは、日本興業銀行、次いで日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の順だったと言われる。ところが、日本長期信用銀行と日本債券信用銀行は不良債権処理にまわされ、日本興業銀行は、みずほ銀行との合併にはなったが、お咎めなしだった。

 

 私がずっと抱き続けている疑問は、結局、日本政府は、多くの日本企業を、それも資産をたっぷり抱えている日本企業をアメリカに生け贄に出したのではないかということだ。

 

 日本は莫大な対外債権を擁しており、外資に頼って成長する必要など微塵もない。にもかかわらず、安倍政権が外資優遇措置を採ろうとしているのは、ハゲタカに日本買収の第二ステージを与えようとしているのではないだろうか。