経済社会学#4 新自由主義の興隆
1.格差拡大の潮流
@ 低所得層の拡大とともに、大きく増加する富裕層
・国税庁の「民間給与実態調査」(2007年)によると、年収200万人未満の給与所得者
数が1023万人となった。1000万人台になったのは、21年ぶり。
・その一方で、国内の富裕層は急激に拡大している。
図1
(出所)高岡荘一郎「富裕層はなぜYUCASEEに入るのか」幻冬舎2008.2.
A 高度経済成長期に低下した富裕層の比率が低成長期に急速に高まった
・日本でも、アメリカでも、格差は高度成長期に縮小し、低成長期に拡大している。
図2
(出所)デヴィッド・ハーベイ「新自由主義」作品社2007.3..
B 格差のトレンド変化
・各国とも格差は縮小してきたが、80年代以降、アメリカとイギリスで格差が拡大する方向に。
(出所)デヴィッド・ハーベイ「新自由主義」作品社2007.3..
2.新自由主義とは何か
政府の積極的な民間介入に反対するとともに、古典的なレッセ-フェール(自由放任主義)をも排し、資本主義下の自由競争秩序を重んじる立場および考え方。(大辞林)
@ 新自由主義が登場した背景
社会民主主義のもたらした高福祉高負担は、石油危機後の低成長経済への移行にともなって高失業・高インフレと財政危機を招き、批判にさらされた。スタグフレーションの原因は国家による経済への過剰な介入と政府部門の肥大化であるとの批判が高まった。
A 具体的な政策
a)英国の事例
マーガレット・サッチャー 1979〜1990年英国首相(保守党)
・規制緩和と民営化
金融ビッグバン(ウィンブルドン方式)
電話会社(1984年)、ガス会社(1986年)、空港(1986年)、航空会社(1987年)、水道事業(1990年)などの各種国有企業を民営化
・金持ちの減税と庶民の増税
所得税は25%〜80%の11段階→25%と40%の2段階
法人税は50%→35%
付加価値税8%→15%
・福祉予算の大幅削減
失業給付のカット
公営住宅への補助金10分の1に
公的医療費の大幅削減
・サッチャーの名言
「あなたはこの国の乳幼児からミルクを取り上げるのですか!」という批判に対して
「乳幼児にミルクを与えるのは母親の仕事であって、国家の仕事ではありません。」
「お金持ちを貧乏にしても、貧乏な人はお金持ちになりません」。
「自助努力です。悔しかったらがんばりなさい」。
「社会というものはありません。あるのは個人と家庭だけです」。
・サッチャーリズムの結末
経済は復活を果たしたが、格差は大幅に拡大。
ポリー・トインビー『ハードワーク』2005年
著者は、『ガーディアン』紙にコラムを書いている女性ジャーナリストだ。まとまった休暇を手にした彼女が挑んだのは、低賃金労働者たちの生活を体験することだった。身分を偽り、賃金の範囲内で住めるアパートを借り、職探しをする。時給840円、週40時間働いたとして、年収180万円の暮らしというのは本当に余裕がない。家賃や税金を支払うと、カーテンレールさえ買えないのだ。
低賃金労働者の暮らしを体験した著者が一番心を痛めたのは、一度入った職場から人々が抜け出せないことだ。転職活動の間には時給が支払われない。履歴書の写真や交通費などのコストが家計にのしかかる。新しい職場に対する不安と仕事を覚えるまでの苦労が嫌になる。そして、彼らを一番職場に縛り付けるのは、同じ職場の仲間なのだ。コスト削減のために、低賃金の労働者たちには、膨大な作業が押しつけられている。それをこなすために、職場の仲間たちは、懸命に工夫をし、絶妙のバランスで仕事を分担する。転職をするということは、そのバランスを崩し、新人の教育という負担を仲間に押し付けることになる。転職が裏切り行為になってしまうのだ。
b)米国の事例
ロナルド・ウィルソン・レーガン 米国大統領(1981−1989)
・規制緩和と民営化
航空規制緩和や電力の規制緩和(1978年;実際にはレーガンの前から始まっている)
・金持ちの減税と庶民の増税
個人所得税14%〜70%→10%〜50%
・福祉予算の削減と軍事費の増大
福祉予算などの非国防支出の歳出削減により、歳出配分を軍事支出に転換し強いアメリカを復活させる。
貧困者救済のためのフードスタンプ制度補助金カット
学校給食費・育英資金などの補助金カット
・レーガンの名言
・レーガノミクスの結末
経済は復活を果たしたが、格差は大幅に拡大。