経済社会学b 第3回 ライブドア問題を考える

 

. 事件の経緯

2005

1月18日 フジテレビ、ニッポン放送株5950円でTOB開始。持ち株12.4%→50%超に

     (この時点で村上ファンドはニッポン放送株の18.6%、サウスイースタンアセットマネジメントも11.0%を保有)

2月8日 ライブドアが時間外取引でニッポン放送株の29.6%を588億円で取得。取得資金はリーマンブラザーズからの借金、転換価格下方修正条項付き新株予約権付き転換社債(MSCB)を800億円発行(ライブドアの売上300億)、金利ゼロ、常に10%引きで株式転換、下限157円。すでに1月中旬以降5%のニッポン放送株取得済で、合計35%の株式を押さえる。翌日の株価7800円(ニッポン放送フジ株の22.5%保有)。堀江社長4672万株の自社株をリーマンに貸す。

証券取引法:持ち株比率が3分の1以上になる取引を市場内で行う場合にはTOBが必要。

2月10日 フジテレビTOBの目標を25%に引き下げ。持ち合いで持ち株比率が25%を超えると、相手は議決権を失う。さらに東証のルールで上位10人の株主が90%超の株式を持てば上場即刻廃止、75%で1年後上場廃止。

2月17日 リーマンがライブドア株890万株を476円で売却、42億円の売却益。

2月23日 ニッポン放送がフジテレビに最大4720万株の新株予約権を発行。それまでのニッポン放送発行株3280万株、発行されればライブドアの持ち株比率15%に。ライブドアは即座に発行中止を求める仮処分申請。

3月3日 ニッポン放送の社員総会は、社員一同の名前で「ライブドアの経営参画に反対します」と全面対決を打ち出す声明を発表した。「ライブドア堀江貴文社長の発言には『リスナーに対する愛情』が全く感じられません。ラジオというメディアの経営に参画するというよりは、その資本構造を利用したいだけ、としか私たちの目には映りません」。

3月11日 東京地裁 新株予約権発行差し止め。「新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるというためには、特定の株主の支配権取得により企業価値が著しく毀損されることが明らかであることを要する」

3月17日 ライブドア、ニッポン放送株の50%超取得。フジテレビLBOへ?

3月23日 東京高裁、抗告を棄却。マネーゲーム目的で買収が行われるときに限られるとした。その具体例として、@株価を釣り上げ、買収した株式を高値で引き取らせるグリーンメーラー、A知的財産権やノウハウを買収者に移転させる焦土化経営、B会社の資産を用いて行う買収者の債務弁済、C会社が持つ高額資産を売却することによる高額配当の引き出し、を挙げた。

3月24日 ニッポン放送、フジテレビジョン、ソフトバンク・インベストメント(SBI)は共同で投資ファンドを設立し、同時にニッポン放送が保有する発行済み株式の13.88%のフジテレビ株を5年間SBIに貸し付けたと発表した。

4月17日 フジサンケイグループ、ライブドア和解。@ライブドア保有のニッポン放送株をフジテレビに譲渡、Aフジテレビはライブドアの第三者割り当て増資に応じ、12.75%を出資、B両者で業務提携委員会(〜11月、成果無し)。最終的にフジテレビからライブドアに支払う金額は1474億円。

1117日 フジテレビは、事業持ち株会社としてフジサンケイグループ各社の株式を集約し、迅速な意思決定ができる体制作りに乗り出すと発表した。このために、2006年4月1日に完全子会社のニッポン放送を会社分割し、新会社にラジオ放送事業を承継させたうえで、グループ各社の株式を保有する会社分割後のニッポン放送をフジテレビが吸収合併する。

2006年

1月24日 東京地検特捜部が堀江貴文容疑者ら4人を証券取引法違反(偽計取引、風説の流布)の疑いで逮捕。20049月期連結決算で、31278万円の経常損失が発生。売り上げ計上が認められず、資本に組み入れなければならなかった自社株売却益376699万円を売上高に含め、買収手続き中だった結婚仲介サイト運営「キューズ・ネット」、消費者金融「ロイヤル信販」に対する架空の売り上げ158000万円も計上するなどして、経常利益を503421万円と偽った。粉飾総額は534699万円。

1222日 東京地検が堀江被告に懲役4年の求刑

1227日 厚生労働省の委託を受けて公的年金の積立金を資金運用している年金積立金管理運用独立行政法人が、ライブドアの証券取引法違反事件で保有していたライブドアの株価が下落し、損害を被ったとして、同社を相手取り48億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こす。

 

(出所)朝日新聞

 

堀江貴文 ロングインタビュー

“これまでとこれから”を語り尽くした90分(下)

夢のためにお金を稼ぐのは、いけないことなのか?

ライブドア事件で感じた矛盾と変わらぬ僕の魂 

 ――ニッポン放送買収時には、同社株の取得に際し、米国投資銀行のリーマンブラザーズにMSCB(転換価格〈下方〉修正条項付き転換社債)を引き受けてもらって800億円を資金調達する一方で、ご自身の持つライブドア株をリーマンに貸し出しました。そして、リーマンの株式売却などにより、ライブドア株は一時急落、投資家の利益は大きく毀損されたと言われます。あれは違法ではありませんが、道義的に考えてどうだったのか。発行者、引き受け業者、投資家の間に、大きな情報の格差がありましたよね。

 

あれは、完全に資金調達の手段でしたね。事業を成長させるエンジンとして、キャッシュがないと新しい投資はできない。で、やりたい事業をやりたいし、早くやりたいから買収をしようと思い、そのためにやったのです。皆がリスクをとらずに安全運転をしている中で、1人だけ法定速度ギリギリまでスピードを上げただけ。別に違法ではありませんよね。

 

逆に、あの額を他の方法で調達できましたか。時価発行増資なんかでは、無理だったでしょう。大事なのは、実際にできるかどうか。さっきも言ったように、僕はお金がないからプロジェクトができない、という状況が一番嫌なんです。手段があるなら、それを使えばいいじゃないですか。

 

ダイヤモンドオンライン 2013.5.31.

 

2.誰が儲けたのか

 リーマンブラザーズ100億から200億円、村上ファンド 200億円程度。フジは440億円高くニッポン放送を買った計算。

 

3.会社は誰のためのものか

 YKK(吉田工業)の創業者である吉田忠雄は、NHKのインタビューで、何故株式を公開しないのかを問われ、次のように答えている。「公開する意志はないです。株主というのはもともと会社に関係がなくて、市場にあるから買う、あるいは、よさそうだから買うんですね。そうしますと、この人は資本家で来ているので、何ら会社に関係がないんです。これが上がって儲かるときは儲けるが、駄目になったら、やめて他のところにいくんです。ですから、本当に株式の値打ちが上がったのは、ここの会社に働いている者が皆で力を合わせて成績を上げるから、50円が5百円になり、千円になった。この人は関係ないんです。だから私が言いたいのは、金を出したから俺が権利だと。この人はね、皆で、百人ならば百人で働いているから成績が上がったんで、あんた金を出して株を買ったからといって、投資してくれただけだろう。それが権利だと言って、権利を振りまわして、これを押さえていくという考え方には私は反対だ。皆で成績を上げるから、皆で株式を持って、皆で配当を受けていく。そういう意味で、儲かるから配当をする、儲からないから配当しない、しかも無償交付だと、10倍もすると。実に権力者だ。そういう考えは、基本的に私は若いころから反対だ。ただ金を出したからと言って権力者になるというのは上手くない。働いている者みなで分配すべきだ」。