労働経済学a #10

日本は外国人労働者を受け入れるべきか

 

1.外国人労働者の現状

 @不況でも増える外国人労働者

 A強まる外国人労働者受入論

 B日本は専門技術職に関しては最も開かれた国

 

2.外国人労働者導入のメリット・デメリット

 @日本にとってのメリット・デメリット

  ・メリットは短期に、雇用主に集中

  ・単純労働者は必要か

 A外国人にとってのメリット・デメリット

 Bやがて誰も来なくなる

 

3.外国人労働者を導入した西欧で何が起こったのか

 @西独の教訓

 A欧州諸国の考え

 

4.急増する技能実習生と留学生アルバイト

 

 

 

(出所)厚生労働省外国人雇用状況の届出状況(平成2910月末現在)

※1 「身分に基づく在留資格」には、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」が該当する。

 

※2 「専門的・技術的分野の在留資格」には、「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「投資・経営」、「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「技術」、「人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「興行」、「技能」が該当する。

 

※3 平成227月に「技能実習」の在留資格が新設された。それ以前に技能実習生として雇い入れられた労働者は「特定活動」の在留資格として届出られている。

 

 

 

新制度による外国人労働者数(各年10月末)

2008年 486,398

2009年 562,818

2010年 649,982

2011年 686,246

2012年 682,450

2013年 717,504

2014年 787,627

2015年 907,896

20161,083,769

20171,278,670

 

(出所)厚生労働省外国人雇用状況の届出状況(平成2910月末現在)

 

(出所)厚生労働省外国人雇用状況の届出状況(平成2910月末現在)

 

(出所)厚生労働省外国人雇用状況の届出状況(平成2910月末現在)

 


1.国連経済社会局試算(2000.3.21.

 日本は5年後が生産年齢人口のピークで、その後生産年齢人口を維持しようと思ったら、毎年60万人の移民が必要。

 

2.経済審議会「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」(1999.7.5.

 外国人労働者の受入れによる多様性と活力の確保

  進展するグローバリゼーションの中で、多様な知恵の時代を迎え、日本がこれからも世界の中で豊かさを維持するためには、多様で異質な才能の積極的活用や創造的な発想に基づく経済活動の拡大が不可欠である。こうした観点からは、日本国内で海外の異質な文化的背景をもつ人々や企業が日本人や日本企業と協力し合い、あるいは、競い合いながら活躍するという状況を創り出していくことが望ましい。このため、次の点を基本的方向として、専門的・技術的分野の外国人労働者の受入れを積極的に進めるための具体的方策等を検討し、推進する。なお、いわゆる単純労働者の受入れについては、日本の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすとともに、送出し国や外国人本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応することが不可欠である。

 

3.第二次出入国管理基本計画(1999.3.21

・内外の機運の高まりが認められる分野を中心として、国内における受入のための条件及び環境を確保し、受入の拡大について積極的に検討していく。

・技術者や技能者の一層積極的な受入を図っていくために、必要経験年数や受入職種等、要請される在留資格に係る基準の見直し

 

 

『日本の論点』2006

森永卓郎「外国人労働者受け入れは差別をなくしてから」

 

 一度は沈静化した外国人労働者受け入れの論議が再び活発化してきている。きっかけは、2000年に小渕総理の私的諮問機関「21世紀の日本の構想」懇談会が、移民政策を打ち出したことだ。報告書は次のように述べている。

 「グローバル化に積極的に対応し、日本の活力を維持していくためには、21世紀には、多くの外国人が普通に、快適に日本で暮らせる総合的な環境を作ることが不可避である。一言で言えば、外国人が日本に住み、働いてみたいと思うような『移民政策』をつくることである。国内を民族的にも多様化していくことは、日本の知的創造力の幅を広げ、社会の活力と国際競争力を高めることになりうる」。

 日本の経済・社会を活性化するためには、多様化を「力」とすべきで、そのためには民族的に多様化することが必要と、懇談会は考えたのだ。

 また、同じ2000年に国連が「日本の生産年齢人口(1564歳人口)が1995年の8700万人から2050年には5700万人へと減少するため、それを補うためには、年間60万人の移民受け入れが必要になる」とする報告書を発表したことが、移民政策の必要性を一層強く国民にアピールすることになった。

 さらに2000年に法務省が8年ぶりに見直した「第二次出入国管理基本計画」では、技能実習生の対象職種拡大や実習期間の延長を打ち出し、中長期的課題として介護労働など社会ニーズの高い分野での外国人労働者の受け入れを示唆するなど、これまでにない積極的な外国人労働者の受け入れ策を提言した。

 外国人との共生がグローバル化する経済のなかで不可欠の条件であることは確かだ。しかし、グローバル化を錦の御旗にして、なし崩し的に外国人労働者や移民を受け入れていくことには、非常に大きな危険が潜んでいる。

 まず、理解しておかなければならないのは、いま受け入れるかどうかが問題になっているのは、一般労働力としての移民で、日本人では代替できないような技術やノウハウを持つ専門的労働者の問題ではないということだ。欧米諸国が海外企業の駐在員にまで厳しい入国制限を課しているのに対して、日本の入国管理は先進国のなかで実質的に最も開かれた制度になっているからだ。専門的労働者は、いまの制度の下でも、日本で働くことが十分可能なのだ。

 一方、一般労働力については、「単に少子・高齢化に伴う労働力不足への対応として外国人労働者の受け入れを考えることは適当でない」という立場を日本政府は採り続けている。実は、国内に強いニーズがあるのは、この部分だ。日本の企業のなかには、賃金水準が低く、労働力の確保が難しい分野で、外国人を活用したいというニーズが根強い。それでは、そうした分野に外国人労働者を受け入れると、どのような影響がでてくるのだろうか。

 まず、日本経済への影響を考えよう。外国人労働者の受け入れは、@メリットが即時に得られるのに対してデメリットは遅れて、しかも長期的に発生する、Aメリットは雇用した企業が独占するのに対してそのツケを払うのは全ての国民である、という二つの特徴を持っている。

 低賃金の外国人労働力を利用できるようになると、人手不足の解消と人件費コスト削減によって、雇用する企業はメリットを即座に受けることができる。ところが、外国人労働力の滞在が長期化し、定住するようになると、彼らのための住宅対策、教育対策、失業対策などに要するコストがじわじわと増えていく。そして、そのコストの負担者は税負担をしている国民全体になるのだ。

 UFJ総合研究所が05年2月に行った「マクロモデルを用いた国際労働力移動の影響調査」は、2005年時点の生産年齢人口を2050年時点でも維持するためには年間69万人の移民の受け入れが必要となるとして、それを行った場合の影響を試算している。非専門労働者を受け入れたケースをみると、実質GDP成長率は平均0.2%引き上げられる。しかし、2050年時点の政府収支への影響は、社会保障がプラス8兆円となるものの、財政への影響がマイナス18兆円となるため財政・社会保障全体では10兆円のマイナスとなっている。財政が赤字となるのは、低賃金の外国人労働者が納める税金が少ない一方で、一般行政サービスに要する費用が日本人以上にかかるからだ。一方、社会保障がプラスとなるのは、年金の保険料が徴収できる一方で、まだ年金給付年齢に達しない移民が多いためだ。ただ、彼らにもいずれ年金は給付しなければならないので、さらに長期で考えれば、政府の赤字は一層拡大していく。その負担は、国民全体にのしかかってくるのだ。

 また、賃金の低い一般労働者を受け入れた場合には、所得分配への影響も深刻になる。 小塩隆士「外国人労働者問題の理論分析」『ESP』(1990年6月)によると、単純労働の外国人労働者が100万人流入した場合、GNPは0.13%上昇するが、単純労働者の賃金は24%減少するとしている。低賃金の外国人労働者を導入すると、同分野の国内労働者の賃金も、巻き添えになってしまうのだ。

 いま、日本にはモノづくりや介護福祉などの分野で就業希望を持ちながらも、十分な報酬が得られないために就職できていない人がたくさんいる。そうした分野に外国人労働者を導入して賃金を下げると、ますます日本人の雇用機会を奪ってしまうのだ。

 こうした点を考えれば、人口減の経済へのマイナスの影響を移民の受け入れで打ち消そうとすることが、いかに問題が大きいかは、明らかだろう。

 さらに移民の受け入れに伴う影響で見逃してはならないもう一つの問題は、送り出し国への影響だ。本来、家族や友人と離れて外国で働くことを望む人は少ない。国内に雇用機会がないから、外国に出稼ぎに出たり、移民したりするのだ。ところが送り出し国にとって人材の流出は、長期的な経済発展を阻害することにつながる。確かに、外国人労働者が送金してくる出稼ぎ収入が経済を支えているという側面はあるものの、その送金のかなりの部分が贅沢な輸入品の消費に振り向けられ、国内経済を必ずしも活性化させていない。だから先進国の責任は、周辺途上国から労働者を受け入れることではなく、直接投資を行うことによって、途上国国内に雇用を創出することだ。直接投資で日本企業が発展すれば、投資収益を通じて、日本の国民所得も増えていくのだ。

 送り出し国への影響で、もう一つ忘れてならないのは、彼らを受け入れた後の人権の問題だ。日本人は、欧米人に対しては奇妙なコンプレックスを持っているので、欧米人が日本に住んでも、彼らの人権が侵害されることはほとんどない。一方で、アジアを中心とする途上国の国民には、残念ながら、いまだに差別意識を持つ人が少なからず存在する。

 差別は、暴行や暴言を受けるという直接的なものから、住宅を借りにくい、犯罪が行われたときに疑われる、日本人との男女交際や結婚を周囲が認めないなど、生活のあらゆる場面に現れる。しかも、差別の問題は、大部分の日本人が差別する心を持たなくなっただけでは解決しない。なぜなら日本で暮らす外国人は、毎日、何百人という日本人と接する。そのなかに、たった一人でも外国人を差別する人がいれば、彼らは被害者となってしまうからだ。

 もし本当に日本が移民を受け入れたいのなら、まず国民の誰ひとりとして人種差別をしないような意識を作ることが先決だ。国民のすべてが外国人を自国民と等しく扱い、平等なパートナーとして心から尊重できるようにすること。実際に移民を受け入れるのは、それができた後でよいのだ。